異世界からの俺様美形王子×現代の巻き込まれ平凡男子の、現代ラブコメ逆転移ファンタジー。 ※話タイトル前の『●』はR18シーンあり。 普通の高校生・坂宮太智の隣に引っ越してきた百谷三兄弟。 ある夜、大智は隣人がなぜか庭を光らせたり、異世界ゲームキャラな格好をしている姿を目撃する。 その日から大智は隣人が気になってしまい、 クラスで席も隣な同級生・百谷圭次郎ウォッチングにハマってしまう。 しかし、それが圭次郎にバレてしまった時、太智は取り返しのつかない仕打ちを受けてしまう――。 「坂宮太智、お前もこれから好奇の視線に晒されて、変人の烙印を押されるがいい」 「そんなことで結婚するなよぉぉっ!」 ※表紙絵 星埜いろ先生
View More高三の五月という中途半端な時期だった。
それまでの俺は見た目通りの中肉中背平凡男子学生で、特に大きなトラブルもなく、若干悪ノリ気味で平和に生きてきた。だけど連休最終日の昼下がり、俺ん家の隣に非凡の固まりが引っ越してきた。
◇◇◇
「突然申し訳ありません。このたび隣に引っ越して参りました百谷芦太郎〈ももやあしたろう〉と申します」
挨拶に来たのは、映画から抜け出てきたような美青年二人と美少年。
俺ん家の玄関が春のイケメン祭りになった。開口一番に深々と頭を下げたのは 艶やかな黒髪のオールバックの男性。
凛々しく端正な顔立ち。「よろしくお願いします」と耳障りのいい低い声。気のせいか背後にキラキラエフェクトが見えてきた。
俺の隣で、母さんから「熟女キラーね」という呟きが聞こえてくる。
熟女だけじゃなく、ちっちゃい女の子からおばーちゃんまで喜ぶと思う。しかも俺が通う高校の数学教諭として赴任するらしかった。これだけでも明日から学校が騒がしくなる予感でいっぱいなのに、
「初めまして、私は百谷宗三郎〈ももやそうざぶろう〉。兄の芦太郎と同じ高校に産休の養護教諭の代理で来ました。何かありましたら、いつでも頼って下さいね」
眼鏡をかけたにこやかな兄ちゃんで、焦げ茶のウネウネ髪。
保健室の先生よりもホストのほうが似合いそうな、優男系イケメン。保健室が女子の溜まり場になる未来が見えてくる。こんな先生が二人も赴任するなんて、間違いなく学校がお祭りモードに突入するはず。
そしてトドメは――。
「……」
「……こら、挨拶しなさい」
「……百谷圭次郎〈ももやけいじろう〉だ」
芦太郎さんに促されて、兄二人の後ろで隠れるように立っていたヤツがボソッと言った。
鋭い目つきに不満そうに顔をしかめたままの、長い茶髪を後ろで束ねた少年。この短いやり取りだけで確信してしまった。まともに挨拶もできないコイツは厄介で嫌なヤツだと。
手足は長いし、俺よりも背丈がある。めちゃくちゃ羨ましい。
しかも兄二人のイケメンっぷりが霞むくらいの美人顔。鼻の高さやら彫りの深さやらが日本人離れしていて、モデルじゃないと言われたほうが嘘だと叫びたくなるレベルだ。
絶対に学校来たら全学年がざわつく。女子だけじゃなく、男子も落ち着かなくなる。
そんな確信をしていると、俺の腕を母ちゃんが肘でつついてくる。
このまま挨拶しなかったら難ありイケメン以下になる。それは絶対イヤだったから、俺は愛想良く笑った。「俺、坂宮太智〈さかみやたいち〉です。先生たちが赴任する高校の三年で――」
「じゃあ圭次郎と同じですね。クラスは二組ですよ」
嬉しそうな宗三郎さんの答えを聞いて、俺の心の中が引きつった。
え……同じ学年?
しかも二組って、俺と一緒じゃねーか!動揺する俺をよそに、母さんが「まあ! この子と同じクラスね!」と嬉しそうに答える。なんで母さんが喜ぶんだよ。
あああ、保護者と先生たち同士で話が盛り上がってる!
ってか百谷兄たち揃って「どうか、どうか圭次郎をお願い致します!」って目を潤ませながら頭下げてる。なぜか母さんに……。学校通うの俺なのに。まあ頼まれても困るけど。ふと視線を感じて顔を向けると、圭次郎と目が合う。
視線に熱がない。
友好な雰囲気まったくなし。仲良くなる気ゼロ。その割には俺から目を逸らさずジッと見てくる。
「俺の顔に何かついてるか?」
視線に耐え切れなくなって俺から話しかけると、圭次郎はクルリと背を向けた。
「……行くぞ、二人とも」
大人たちの和やかな空気をガン無視で家を出ていく圭次郎。場が一気に気まずくなる。
「す、すみません、坂宮さん。今日はこれで失礼します」
芦太郎さんが慌てて直角に頭を下げて、宗三郎さんと一緒に圭次郎を追っていく。
春のイケメン祭りは、嵐のように去ってしまった。
しばらくぽかんとなってたけれど、母さんの声で俺は我に返った。
「……大智、圭次郎くんと仲良くなってあげるのよ」
「えっ!? 急に何を言い出すんだよ……見ただろ、あの態度。俺と仲良くする気ゼロなのに」
「きっと深い事情があるのよ。だって――兄弟なのに、三人とも似てなさすぎるから」
言われて思わず「確かに」と頷いてしまう。
それに二人とも先生なのに、圭次郎の非礼を強く咎めはしなかった。
帰り際なんて殿様に付き従う家臣みたいな感じだったもんな。どこか遠慮しているような空気だった。似ていなくて、どこか不自然な三兄弟。
でも、こっちが仲良くするつもりでも、あっちが拒絶するならどうしようもない。
ただ顔がいいお隣さんができただけ。
俺から近づくことなんてまずないだろうと思っていた。そう。アレを目撃するまでは――。
◇◇◇午後の授業が終わって、野球部の部室に向かった時だった。「……ん?」自分のロッカーを開けたら、きちんと折り畳まれた紙が置いてあって、一度首を傾げる。丁寧で達筆な字で書かれた『坂宮君へ』という宛名。差出人の名前は書かれていない手紙。だけど誰が出したかすぐに察しがついて、思わず息を呑んだ。「どーした百谷?」近くでユニフォームに着替えていた同学年の部員に話しかけられて、俺は咄嗟に首を横に振る。「な、なんでもない。ちょっとトイレ行ってくる」「なんでもなくないじゃねーか。早く行って来いよ。トイレは何を差し置いても最優先だろ!」笑いながら部室を出て行こうとする俺を、ソイツは快く送り出してくれる。ありがとうよ、トイレの重要性を分かってくれて。俺は親指をグッと立ててソイツの心意気に感謝すると、手紙を持って体育館のトイレに駆け込んだ。個室に入って一旦深呼吸して息を整えると、俺は手紙を開いていく。そこにも送り主の性格を表すような、きれいに整った字で書かれたメッセージがあった。『直接会って話がしたい。君に合わせるから、場所と時間を指定してくれ。くれぐれも殿下には内密に』今日の昼間に伝言したら、もうマイラットから返事がきた。早いな……精霊、ちゃんと仕事してくれたな。精霊ってマジで有能だなあ、と思いながら俺は腕を組んで考え込む。ケイロたちにバレないよう密会……それができれば苦労しないんだけど。しかも会ったことないけど、俺、この人の敵側の人間なんだよな。間に悠がいるせいか、あんまり怖い感じがしない。ノコノコと勝手にひとりで行ったら、人質になっちゃう展開かコレ?でも、悠の話を聞いてると何か事情がありそうだし、悪いヤツじゃなさそうな感じもするんだよな。悠が惚れちゃった旦那さんみたいだし。うーん……としばらく唸ってから、俺はそっとささやいた。
「えっ、俺、なんか変なこと言ったのか?」困惑したまま三人で顔を見交わしてから、アシュナムさんが大きく息を呑むのが見えた。「精霊と意思の疎通が図れるとは……我々の世界ではあり得ない」なんだって? 話しかけるだけで充分だぞ? めちゃくちゃ簡単だぞ?しかも反応だって単調じゃない。いろんなバリエーションがあって、むしろ感情豊かだ。これで意思がないだなんて考えられない。アシュナムさんの発言が信じられなくて、俺は慌てて背後の精霊に顔を向ける。「そうなのか、お前?」一瞬だけ申し訳なさそうに光球が弱く輝き、逃げるように姿を消してしまう。なんだか怯えた様子だったような……ケイロたちを怖がっているのか?疑問に思いながら顔を前に向け直すと、三人ともに険しい顔をして俺を見ていた。「な、なんだよ……俺、そんな怖い顔されるほど変なことしたか?」「……いや、物珍しいだけだ」ケイロは鋭い眼差しで左右に控える二人を見やってから、こっちに近づいてくる。「もうすぐ授業が始まる。さっさと教室に戻るぞ」「ああ……って、ちょっと待てぇ、は、離れろよぉ……っ」アシュナムさんたちに背を向けて歩き出そうとした途端、俺の隣に並んだケイロがしっかりと肩を抱いてきた。ち、力が抜ける……歩くと振動が……ぅぅ、授業に集中できなくなる……ってか、これ一番誰かに見られちゃいけないヤツだろ!?速く歩けと促すように、ケイロは俺の肩を押しながら颯爽と歩く。そして背後の二人と距離を取った後、一度立ち止まって振り向く。いつになくケイロの顔が怖い顔つきで、お付きの人であるハズの二人を牽制しているように見えた。「この件に関しては他言するな。なんの力もない、俺が気まぐれで選んで固執している
もっと精霊と交流を持ちたかったが、そろそろ昼休みも終わりかけ。もう帰っていいから、って言えば消えてくれるのかなあ……と思っていたその時だった。「あ……」ケイロたちが校舎裏へやって来たことに気づいて、俺は木の陰から三人をうかがう。まだ俺には気づいていないようで、アシュナムさんとソーアさんはケイロにへりくだった態度を取っている。ケイロもかしずかれるのが当たり前と言わんばかりに偉そうだ。このまま気づかれないなら、やり過ごしたほうがいいか? こんな所で俺ひとりで何やってんだって話になりそうだし。でもなあ……こっちの世界のことをアドバイスする立場にある身としては、ちょっと見過ごせない。俺は姿を現わし、ケイロたちに駆け寄った。「太智!? どうしてここにいるんだ?」驚くケイロに答える前に、俺は周囲を見回して人がいないことを確かめた上で近づき、コソッと告げた。「精霊が使えるようになったから、魔法の練習してたんだよ」「そうか。休みを強要されていても、自ら進んで鍛錬するとは良い心がけだな。さすがは俺の嫁だ」「学校で嫁呼ばわりするな……って、そんなことよりも! かなり重大な話があるんだけど」「なんだ?」「ケイロたちって、いつも校舎の中で集まったら三人一緒に行動しているのか?」俺の問いかけに、ケイロがきょとんとなる。そして心底「なぜそんなことを聞くのだ?」と言いたげに首を傾げた。「ああ、そうだが? 立場は違えど兄弟なら校内で一緒にいてもおかしくないだろ?」「……お前のキャラに合ってない」「どういうことだ?」「人と馴れ合わないクール男子は、学校で兄弟仲良く並んで歩かねぇ! むしろ身内とは顔を合わせないように避けるか、短く用件を伝えてさっさと離れる。基本、俺らぐらいの男子高生は兄弟と馴れ合わないことのほうが多い」「な、なん、だと…&helli
「うおっ、本当に出た。前から気になってたけど、これどうなってんだ?」俺は思わず指を差し出し、光球に近づけていく。モワッ、と。触ったという手応えはないし、そのまま指が精霊を貫通してしまった。指が入っているところはほんのり温かくて、風呂場の湯気に指を突っ込んでいるような感触だ。不思議だなあ、と思いつつ何度も指を上下させていたら――スス……。光球が自分から動いて、俺の指から離れた。「もしかして触られるの嫌だった?」呟いて小首を傾げる俺に、光球が一瞬光を強めた。まるで返事をしてくれたような行動で、俺は首を伸ばし、顔を近づけながらマジマジと観察する。「ひょっとしてお前、意志があるのか! へぇー……なあ、喋ることってできるのか?」この質問にはなんの反応も見せない。どうやらこれが否定らしい。まさかこんな光の球と意思疎通ができると思わず、俺は目を輝かせてしまう。ゲームや漫画好きなら憧れるファンタジー展開が今、目の前に……っ!こんなところをケイロたち以外の誰かに見られたら、間違いなく変人認定される。校内でこんなことするもんじゃないよな、とドキドキするけど、溢れる好奇心は止められなかった。「お前らもあっちの世界から来たのか? ……あ、光らねぇ。こっちにもいるんだ。へぇぇー……食べ物とか食べられるのか? せっかくだし、お近づきのしるしに何かあげたいんだけど……あ、ダメなのか」何もあげられないのは残念だなあと思っていたら、子犬がまとわりつくように光球が俺の周りをクルクルと回る。どうやら俺の気持ちは嬉しかったらしい。「食べられないなら、一緒に遊んだりするほうが嬉しいのか? 鬼ごっこしたりとか……うわっ、眩しいっ。そっか、そういうのは好きなんだ。なんか子供というか、人懐っこいワンコっぽいというか……あ、急に光が消えた。スン顔した
◇◇◇休み明けの授業中。期末テストが近いと分かっていても、授業の内容は頭に入って来なかった。ケイロの国に力を与えている百彩の輝石。その輝石を守りたい。国のためにならないからと盗んだマイラット。少し話を聞いただけでも、輝石を奪われたことが国の一大事だとは分かるし、王子のケイロが直接乗り込んでくるほどのことなのも理解できる。でも悠の話が本当なら、どうして国のためにならないんだ?輝石を守るって、マイラットってヤツは何から守りたいんだ?国家転覆の陰謀とか、国の威信とか、王家の裏事情とか……そんな漫画やラノベな世界とは一切無縁な一般高校生の俺。あれこれ考えて真実を見つけ出すなんてまずできない。ムリ。期末テストで赤点回避するだけで精一杯な頭だし。考えても無駄――って分かってるのに、それでも頭が勝手に働いてしまう。ケイロたちはマイラットの意図は知ってるのか?もし悠から聞いた話をしたら、何か前進するか?……でも悠からは、自分のことを言わないでくれって頼まれてるしなあ。悠が協力者だって分かったら、容赦しないだろうなケイロは。魔法で自白は通常運転だろうし、マイラットをおびき寄せるために、悠を利用するかもしれない。一緒に昼食を取る仲でも、たぶんケイロはやる。だって国の一大事だから。親友を追い詰める真似はしたくない。けれど、このまま放置はできない。一回、マイラットから話が聞けるといいんだけどな。あっちの事情が分かったら、もしかしたら何か状況が変わるかもしれない。知らないから困るんだよ。うん。誤解の元だ。俺は巻き込まれちゃった第三者だから、当事者じゃない分だけ怒らずに事情は聞けるし、もしマイラットが悪いヤツで何か仕掛けてきたら遠慮なく倒せるし……俺が密かに動くしかないよな。うーん、これって内助の功になっちまうのか?ケイロのことを考えて動こうとすると、全部夫婦絡みな感じがしてならない。な
◇◇◇夜になっても俺がベッドでゴロゴロしていると、「やっていることが昼間とまったく変わってないな、太智」なんの前触れもなくケイロが部屋に入ってきて、俺はビクッと肩を跳ねさせる。「急に入って来るなよ! せめて一声かけてくれ。親しき仲にも礼儀ありって言うだろ!? お前だって俺が不意打ちで部屋に来たら困らないか?」「驚きはするが、歓迎するな。お前から積極的に夜這いへ来てくれるのだからな、喜んで相手をするぞ」「なんでもかんでも夜の営みに繋げるなぁ……どうしてこんなにヤりまくってるのに、まだ身の危険を感じなくちゃいけないんだよ」筋肉痛を全身へ響かせながら体を起こした直後の問題発言に、俺はベッドの上でうな垂れる。そして密かにケイロが部屋へ来た途端、いつも通りの空気になったことを驚く。昼間に悠から教えてもらった話を延々と考えて、ついさっきまで引きずって胸が重たくなっていたのに。あっという間に元の調子を取り戻して、何事もなかったようにやり取りできてしまう。まだ出会って二か月が経過するかしないかの期間なのに、もう夫婦の空気が板についている。ケイロについて知らないことが山ほどあるっていうのに……。俺は頭を掻きながらケイロに尋ねる。「今日はどこへ行ってたんだ? もしかして、あっちの世界?」「ああそうだ。面倒なことに定期的に報告しなくてはいけなくてな……奪われた百彩の輝石は、我が国にはなくてはならない秘宝。早く取り返さなくては、これからの行事や国の大事にも影響が出てくる」「百彩の輝石ってそんなにすごいものなのか?」ケイロたちがこっちに来た目的の、百彩の輝石。さり気なく尋ねてみると、ケイロは小さく頷いた。「ああ。遥か昔、精霊王が親愛の印にと祖先へ贈ったものらしい。それを覇者の杖にはめ込めば、その杖を手にした者はすべての精霊を使役し、あらゆる魔法を可能にする」「魔法使いの最強装備じゃねーか。そりゃあ持っていかれたら困るよな」
『あー、ムリムリ。三日に一度は中に出されないとダメなんだぞ? 体も頭もおかしくなるって』『え……? 三日? 中に出されるって……?』『え? 悠は違うのか?』『僕は……一週間に一度、キスしてる。舌を絡め合う濃厚なやつ』思わずスマホの画面を見ながら俺は固まる。そして動揺任せに素早く文字を入力した。『はぁぁ? それだけでいいのかよ!』『それだけって……ベロチューだよ!? しっかり唾液飲まなくちゃいけないんだよ!?』『俺のに比べたらかなりマシだから、それ! 時間かかんねぇし、体に負担もかからねぇし、キスなら挨拶みたいなもんって割り切れるし!』『割り切れないよ! あんな濃厚なの、雰囲気出されながら丁寧に毎回されたら……』悠の困惑が伝わってきて、不意に保健室で指輪を見せてきた時のことを思い出す。巻き込まれたのに、相手と夫婦であることを受け入れていた――俺と同じだ。悠の本心が分かって、俺はため息をついた。だよなあ……ベロチューでも意識しちまうよなあ。そりゃあ中に出されちゃったら、意識するどころじゃなくなるよなあ……。思わず遠い目をして現実逃避しかかった俺を、ピロリン、と返信の通知音が引き止める。『太智は何をされたの?』『口では言えないスゴいこと……察して。頼む』『あ……え、最初から?』『最初から。もうお婿に行けない』『どうしてそんなことを……そこまでしなくてもいいのに』頭の片隅でチラついていた疑問を悠に書かれ、俺の中の戸惑いが一気に膨らむ。抱かなくても良かったのに、なんで嘘までついて俺を抱いた?今はちゃんと両想いで、心が伴っている。昨日あれだけ確かめ
『大丈夫。昨日、ケガとかなかった?』『ケガはないけれど、今スゲー筋肉痛。ケイロに無理された』『大変だよね……だって逆らったら何もしてくれなくなって、自爆しちゃうもんね』悠も俺と同じような状態なのに、その中身はきっと雲泥の差がある。好きな相手でも延々と抱かれ続けるの大変なのに、そうじゃない相手だったら苦痛でしかないよな。今までの苦しみを想像して、俺はスマホを見つめながら顔をしかめる。そして悠を巻き込んだヤツに怒りを覚えながら、新たなメッセージを送った。『どうしてマイラットってヤツと悠が結婚することになったんだ?』『マイラット……そっか、あの人の本名、そんな名前なんだ』『え? 知らないのか?』『教えてくれないんだ。仮初めの結婚だから、いつか別れることになる者の名前など知らなくてもいいって』『やけにドライなヤツだな』『少し頭が硬い人なんだよ。いつもは彼の宿主になっている人の名前で呼んでる』『宿主って誰だ?』『それは言えない。分かったら王子に教えるんだろ?』『うん。悪いけど……』『王子に知られたら、彼も、宿主も殺される。ごめん、それだけは嫌なんだ』悠のメッセージにドキリとする。ケイロたちは裏切り者は許さないと言っているし、マイラットがこっちの人間に同化したことも説明は受けた。裏切り者を捕らえた後のことを考えていなかったから、その末路を聞いて今さら背筋がゾッとした。『ケイロたちは百彩の輝石っていうのを取り戻しに来たんだ』『やっぱりそうなんだ』『だからそれを返したら、殺されるのは避けられるかもしれないぞ?』『どうだろう……その石がないと同化ができないって言ってたから、返せないと思う。同化していないと宿主が死んじゃうから』『ええ!?』『元は瀕死だったその人へ彼が乗り移ったんだ。僕はそ
◇◇◇球技大会の翌日は土曜日で、学校は休みだった。ただでさえ決勝まで全力を出し尽くした上、休みを見越してケイロに抱き潰されたせいで、俺は全身筋肉痛。まともに外出なんかできるハズもなく、自室のベッドに横たわるばかりだった。「日頃、部活動とやらで運動している割にはか弱いな」俺の部屋を自由に出入りできるケイロが、ベッドの縁に座ってニヤけながら人を覗き込んでくる。コイツのほうが試合と長時間の行為で体に負担はかかっているのに、筋肉痛どころか疲れを残していない。顔良し、頭良し、運動神経も抜群で恐ろしいまでの体力バカの絶倫。ここに思いやりと加減ができるっていう要素が加われば完璧なのに……。心の中でないものねだりをしつつ、俺は力なくケイロを睨む。「お前みたいな超人が普通だと思うなよ……うう……喋るだけで微妙に体痛ぇ……」「今日と明日、大人しくしていれば問題ないだろ。早く回復してもらわんと、お前を俺の暇つぶしに付き合わせられない」まさか回復した途端に、また昨日みたいに抱き潰す気かよ!?今までのケイロだったら、多分そんな意味で言ってたと思う。だけどからかい半分の笑いを浮かべていたケイロの眼差しが、ふわりと優しくなった。「俺はこの世界をまだよく知らない。用さえ済めばいい、としか思っていなかったが、お前が生きてきた世界だから興味が出てきた……さっさと元気になれ。共に行きたい所が山ほどある」お、お前……俺相手に、そんな心底惚れて愛しくてたまらないって目をするな。恥ずかしいだろ……っ。ボフッ。耐え切れなくなって俺は顔を引っ込め、布団に潜り込んでケイロの視線から逃げる。でもケイロはすぐに布団をめくって、俺の頬にキスしてきた。うっかり体がビクンッと跳ねて、全身に痛みと甘い痺れが走った。
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